コラム

自分が無い。

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「どうしたい?」と聞かれても、どう答えてほしいんだろう?と、考えてしまう。
「どう思う?」と聞かれても、どう答えたらどう思われるだろう?と、考えてしまう。

どこへ行きたい?なにが食べたい?何時まで居られる?いつ会う?

どこへ行きたがったら喜ばれるか、なにを食べたがったら気に入られるのか、いつまでなら居てほしいのか、いつまでには帰ってほしいのか、いつ会いたいって言うのが正解なのか。

疲れるからあんまり歩きたくないけど、つまんない人間って思われたら嫌だな。お金かかる所だと迷惑かな。花火は混んでるから嫌がられるかな?ていうかわたしなんかと行きたくないか。いつもパスタ食べたがる女ってバカみたいかな。ここで焼き鳥って言ったら好感持たれるかな?帰るのあんまり遅いと迷惑だよね。でも早すぎると、それも嫌な気持ちにさせる?本当はすぐにでも会いたいけど、向こうは再来週くらいを想定してるっぽいかな?

常に、正解の回答を探して答えて生きていて、自分の意見が言えない。

意見を要求される場面では、とっさに、喜ばれそうな自分の意見らしきものを述べてきた。

面白いと喜ばれるなら、角度の違う意見を考える。「斉藤さんやっぱ面白いわー」根性があると喜ばれるなら、なんでも前向きな意見を。いつでも諦めずに食い下がる姿を見せる。「尊敬する、根性がすごいね」慎ましさが喜ばれるなら、控えめに、遠慮がちにしている。「おしとやかで思慮深い。さすが大人だよね」

どう答えたら、どう振る舞ったら相手の期待に沿えるか?頭の中は、そればかり。

自分がまるでない。

先日、ある年配の女性と仕事でご一緒した時の話。

その方は、取引先の社長夫人で、このご時世に眉毛がまだなかなかに細く、眉山へ上る角度も眉尻への下る勾配もすごかった。持ち物には紫色のものが多く、タバコはパーラメントだった。豹柄も探したけど、その日は見つからなかった。

好きな音楽の話になった。そんなもん絶対、中森明菜でしょ。秒速で中森明菜の名曲を思い出し、次なる話題の展開に備える。

「わたしはね。明菜が好き!」はいきたドンピシャ!

「でもね。最近はもうずっと嵐が好き!全然詳しくはなくて、有名な曲しか知らないんだけどね!とにかく好きで、毎日聞いてるの!」

満面の笑みで嬉しそうに打ち明けてくれた。

A-RA-SHI…!

明菜がドンピシャで合ってたことを含め、想定してた「難破船」「北ウイング」への会話の導線を完全に打ち消す、嵐への真っ直ぐな「好き!」

そ、そうなの!?
嵐が好きなの?

それはそれは屈託のない、とても見事な、素直な「好き!」だった。聞いていたわたしの方がなぜか恥ずかしくなってしまって、思わず正しい相槌も打てずにただ黙ってしまった。

こんなにも真っ直ぐに自分の好きな物を好きと言えることへの羨ましさと、こんな風に好きと言ってもいいのだ!という、驚きの混ざったような、恥ずかしさだ。

「斉藤さんは?誰が好き?何が好き?」

聞き返してくださった。


今までの人生でも何度となく、同じ質問はされてきた。

aikoが好きかもしれない。学生の頃、1番仲のいい友達が聞いてたからなんとなく聞き出した。彼女とは遊ばなくなったけど、恋をするとaikoの歌と自分の気持ちが重なるから、なんとなくそのままずっと聞いていた。

しかし、30代後半になって恋だのなんだのってナイかもしれない。そんな見た目で意外と可愛らしいこと考えてるのね〜なんて笑われるかもしれない。JPOPが好きだなんてダサいと思われるかもしれない。洋楽が好きと答えた方がオシャレでかっこいいんじゃないか。クラシックが好き、と答えた方が上品で賢そうに思われるんじゃないか。

それに、aikoのここ5、6年の歌はあまり知らないし、そんなんで好きって言って、もし相手がファンクラブにずっと入ってるような、もっと詳しい人だったら?洋楽って言ったって作業中に歌詞が入ってこないから流してるだけだし。クラシックは、漫画の『のだめカンタービレ』がきっかけで好きになったくらいの超にわかファンだし。


「音楽とか、決まったものはあまり聞かないです。適当にその時に流行ってるのとかを…」

どう答えたらダサくないか。印象がいいか。考えに考え、結果、今までずっとそう答えてきた。

その日も、少しは考えたものの、やっぱりそう答えてしまった。
「そっか〜」再び嵐の話に戻り、一安心はしたものの、しばらく動揺は続いた。

好きなものを好きだって真っ直ぐに言えるこの人は、なんてかっこよくて、眩しくて、大きいんだろう。それにひきかえ、わたしはなんて姑息で、つまんなくて、惨めな人間なんだろう。

この人はきっとわたしが誰を好きだと言ったって、それでダサいとか、浅はかだとか、ジャッジしたりしないと感じたのに。

長年染み付いた思考の癖に抗うことができなかった。

どう答えたら、どう思われるのかを考えてしか会話ができないなんて、なんて面倒な事してるんだろう?そもそも、そんな半分嘘のような会話で作り上げる人間関係なんて、もっと言えば「斉藤ナミという人間」なんて、本当にわたしなんだろうか?

会話だけじゃない。冒頭に書いたように、自分の意見や行動まで、他人にどう思われるかで決めている。

勉強ができれば賢く見られる。スポーツができればかっこよく見られる。仕事を頑張れば認められる。テキパキ動けば、しっかり者に見られる。

他人に認められたい。良く見られたい。好かれたい。嫌われたくない。

そのままの自分ではつまらない気がして、ダメな気がして、価値がないと感じてしまって怖くて、誰に対しても個人でわけのわからないブランディングを一生懸命している。

おかげで自分がまるでなくなってしまった。自分はどうしたいのか?何をどう思っているのか?

自分でも自分がわからなくなってしまった。

もう人生まるごと、他人によく思われたいという判断基準で作りあげた虚像の塊かもしれない。

わたしは、他人の評価の中で生きているの?

どこからが自分自身の行動で、どこからが他人に良く思われたい為の行動なのか、自分で境界線がわからない。

もしかしたら、かっこいいと思われたくてデザインをしたいのかもしれない。面白いと思われたくて変なイラストを描いてるのかもしれない。童心を忘れない大人と思われたくていまだにゲームをしているのかもしれない。オシャレと思われたくてこの服を選んだのかもしれない。髪も顔も、持ち物も言葉使いも、結婚も、子供を持ったことも、全部全部、本当は望んでもいないのに、そうであれば他人に認められる気がするから、好きでもなんでもないのに、好きな気になっているのかもしれない。

こうして息をして生きていることさえも、自分で望んでいることなのか、他人の目を気にしてなのか、よくわからない。

だとしたら、わたしは、他人に認めてもらう為なんかに、なんでわざわざ、「わたし」の人生を生きてるんだろう?



色々わからなくなって、コーチングもしている友人に尋ねてみた。

彼は「なにをしている時が楽しい?幸せ?」と質問してきた。

その質問でも『正解の回答をして彼によく思われなきゃ』という考えが瞬時に出てきたけど、今回は一生懸命本当の自分の答えを考えてみた。

すごく時間がかかった。

やっぱり、はっきりとはわからない。
今は、美味しいものを食べること、小さい範囲を丁寧に掃除すること、本を読むことが好き…かもしれない。

「誰にも見られなくても、言わなくても、自分一人だけでも勝手にやり続けるような、好きなこと、幸せなことを見つけて、してみなよ。それが見つかれば、きっとだんだん大丈夫になっていくよ」と言ってくれた。

見つけたい。

本当に心から好きなこと。

誰の評価も気にしない自分になりたい。自分の人生を生きたい。自分の好きなものを知りたい。自分だけの幸せを見つけたい。「嵐が好き!」って屈託なく教えてくれたおばさんのようになりたい。


新しい年度が始まる。

これから、自分の人生を見つけたいと思う。

今朝、起きて、朝食の時間になって、本当に食べたいものは何か考えてみた。

長年ずっとコーヒーとパンを食べてきた。それだっていつもそうしてきたからで、思考停止していた。本当はオレンジジュースが飲みたいかもしれないし、パンじゃなくてご飯がいいかもしれない。シリアルがいいかもしれない。

結局、何が食べたいかどころか、お腹が空いてるのかどうかすら良くわからなくて悩んでるうちに11時になってしまったので、もうランチまで待つことにした。

自分の気持ちに向き合うってこんなに大変なのね…。

時間がかかってもいいから、まずは一人で、自分の好きなものを選んでいこうと思う。

本当に自分の好きな服、好きな音楽、楽しいと思うこと、幸せな気持ちになること、時間がかかっても、すぐにはよくわからなくても、たくさん触れて探していこう。嫌いなものからなら、もっと早くわかるかもしれない。

この春から、本当の自分を探していくことにします。

今日、今から。やってみます。

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前田デザイン室『鬼フィードバック』note 1.2執筆

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